unsung hero

三国志の劉備玄徳やギリシャ神話のアキレスなど、英雄は古今東西の詩歌に登場し、後世に名を残します。でも彼らの他にも無数の人々が目立たぬところで活躍したからこそ歴史は動いたんですね。

会社組織でもスポーツの世界でも、目立つ仕事をするエリートやスター選手の陰には、必ず彼らを支えている陰の功労者が大勢いるはずです。

そんな詩歌にもうたわれない「縁の下の力持ち、不可欠だが目立たない仕事をする人、苦労が多い割に報われない仕事をする人」のことを an unsung hero と呼びます。

2001年9月11日のアメリカ同時多発テロでは、爆発炎上する世界貿易センターに多数の消防士・警察官が突入していきました。危険は十分承知の上で決死の救助活動を続け、逃げまどう人々を誘導していた消防士・警察官350人以上が命を落としてしまいました。毎年行われる追悼式典で、彼らは unsung heroes として称えられています。

<例文>
Nick receives little acknowledgment for all his low-profile work,
but he is the unsung hero of the successful project.
目立たない研究ばかりでニックはあまり認められていないけど、
あの成功したプロジェクトの陰の功労者は彼なんだよ。

split hairs

直訳すると「髪の毛を半分に割る」ですが、そんな細いものを裂くなんてほとんど無理な話。まったく無駄な努力だということで、「つまらないことにこだわる、細かいことをくどく言う、重箱の隅をつつく、末節にこだわる」という否定的なニュアンスに発展しました。

1600年代の英国の文豪シェイクスピアが戯曲の中でこれに似た表現を使い、17世紀後半から他の書物にも登場するようになり定着していきました。

ちなみに枝毛は split ends ですから、お間違いなく。

<例文>
Margaret is always splitting hairs.
She says I looked away eighteen times during our conversation.
マーガレットっていつも細かいことにこだわるのよね。
会話中に私が18回も目をそらしたって言うのよ。

born with a silver spoon

昔からヨーロッパでは、赤ちゃんが生まれた時、その子の富と幸福を願って、小さな細工物の銀のさじを贈る習慣があります。

生まれた時から純銀製の高価なスプーンを持っている子供は、当然お金持ちの子供なので、「裕福な家庭に生まれた、高貴な家柄に生まれた、上流階級出身である」という意味でこのイディオムが使われるようになりました。17世紀初頭に書かれたスペインの小説「ドン・キホーテ」にもこの表現が登場します。


a silver-spoon kid / brat は最近使われ始めた言葉で、お金持ちの家に生まれて、なんの苦労も知らずに育ったような子供を嘲笑するような時に使われます。

CBCラジオのトークショーで、ゲストがジョージ・W・ブッシュのことを He's just a silver-spoon brat.(あいつなんか、金持ちを鼻にかけたガキじゃないか)と言ったときには驚きました。大統領の息子としてテキサスでわがまま放題に育った人物がアメリカの最高権力者になってしまい、社会の最下層にいる人々を戦争に送り出していると憤っている内容でした。


<例文>
Daniel looks like an ordinary guy,
but he actually was born with a silver spoon in his mouth.
ダニエルってどこにでもいるような人に見えるけど、
実は彼は裕福な生まれなのよ。

Good Samaritan

これは「苦しむ人々に惜しみない援助を与える情け深い人、困っている人々を無視せずに、すすんで手を差し伸べる人」という意味で、聖書に登場する「良きサマリア人」の話に由来しています。

あるユダヤ人が、エルサレムからエリコへの旅の途中に強盗に襲われました。彼は金品を奪われ、身ぐるみはぎ取られた上、殴られ蹴られて半殺しにされ、道ばたに放り出されてしまいました。

ちょうど通りかかったユダヤ人の祭司は、面倒に巻き込まれたくなかったので、見て見ぬふりをして通り過ぎていきました。今度は神殿で奉仕するレビ人が通りかかりましたが、倒れている旅人をちらと見やっただけで,さっさと行ってしまいました。

そこへ、ひとりのサマリア人が通りかかり、傷つき苦しそうにうめいている旅人に急いでひざまずき、その傷口に油とブドウ酒を塗って応急手当をしました。

そして自分が乗っていたロバで旅人を宿屋まで運び、一晩中看病しました。翌日、サマリア人は宿屋の主人に銀貨2枚を渡し、「この人を介抱してあげてください。足りない分は、帰りに寄ってお払いしますから」と言って去っていきました。(ルカの福音書、10章30〜35節)

これは「自分自身を愛するようにあなたの隣人を愛しなさい」という有名なたとえ話です。サマリア人とは、当時パレスチナのサマリア地方に住んでいた人々で、歴史的背景から混血児と呼ばれ、ユダヤ人から軽蔑され迫害される立場にありました。

「隣人愛」とは仲間内のものではなく、自分にはなんの利益にならなくても、たとえ敵対する相手にでも、困っていれば惜しみない援助の手を差し伸べるような、エゴイズムを越えた愛を意味します。


バンクーバーで起こった暴行事件では、深夜勤をしていたガソリンスタンドの従業員が男に暴行されていた女性を助けようとして反対に襲われ大怪我を負ったことがありました。

また、男に銃撃されている血まみれの女性を、偶然居合わせた男性が自分の車に乗せて助けるという事件もありました。彼の場合も、ひとつ間違えば命を落としかねない行為で、このような自己犠牲的行動を a good Samaritan act といいます。

<例文>
That Good Samaritan saved Mary's life, with little regard for his own.
あの人がメアリーの命を救ったんだ、自分の命もかえりみず。

hit the spot

運動して汗を流したあとやお風呂上がりに冷たい飲み物で喉を潤すと「これがほしかった!」という満足感がありますよね。そんな時に思わず口をついて出るセリフがこれ。

抜群のタイミングで、体や気持ちが求めている食べものや飲みものが出てきた時に使います。また時には、言ってほしくないことをはっきりと言われたり、隠していたことを言い当てられたりした時にも使われます。

1950年代に登場したアメリカのスラングで、今ではすっかり日常語として定着。ほしかったものを飲んだり食べたりした直後なら That hit the spot. と hit の s を取って過去形に。日本語だと「これがほしかった!」といいますが、英語では this よりも that の方が自然に響きます。

<例文>
Wow, Pizza! That hits the spot.
I'm terribley hungry.

わぁ、ピザだ! ちょうど食べたかったんだ。
おなかすっごくすいてるし。

hit the roof

20世紀初頭からアメリカで使われ始めた言葉。昔のディズニー漫画のように、ものすごーく怒って、耳から蒸気でも噴き出しながら飛び上がり、天井にぶち当たるような描写がぴったり。

単に怒るだけでなく、いきなりカッとするというニュアンスがあります。日本語でも「怒髪天を衝く」という表現がありますね。

怒りを表すときには、他にも hit the ceiling、go through the roof、blow your top、blow your stack などの類語があります。


<例文>

My mother hit the roof when she saw my cell-phone bill.
ボクの携帯電話の請求書を見たら、お母さんカンカンに怒ったよ。

up to one's ears

耳まで水につかったら身動きがとれなくなることから、up to one's ears はアメリカの口語で「〜が山ほどある、〜に埋もれている、〜でにっちもさっちもいかない」という意味になりました。

How's everything going?(うまくいってる?)と聞かれた時に、手を耳のところに挙げて「ここまで」と示すようなジェスチャーをしながら、うんざりした表情をするだけでも十分伝わるほどよく知られたフレーズです。

後に in をつけて何が原因で身動きがとれなくなっているのかを表現します。仕事なら in work、借金なら in debt、とにかくいろんな問題を抱えているなら in trouble や in problems、「宿題がいっぱいありすぎる〜!」という状態なら in assignments と続けます。

ears の代わりに、neck や eyeballs も使われます。

<例文>
Dennis has been up to his ears in debt since his company went bust.
経営していた会社が倒産して以来、デニスは借金で首が回らないんだ。

the pot calling the kettle black

昔は直火で調理していたので、鍋もやかんも煤で真っ黒でした。そこから、真っ黒になった鍋が自分の姿を知らずに同じく真っ黒になったやかんを笑っているという例え話が生まれました。

欠点のある人が、自分の欠点に気づかないで、他人の欠点をけなしたり笑ったりしている姿を嘲笑するときに使います。別の言い方をすれば「似たり寄ったり」「どっこいどっこい」「目くそ鼻くそを笑う」でしょうか。

中国語由来の「五十歩百歩」は、戦で五十歩逃げた者が百歩逃げた者を臆病だとあざわらう愚かさを孟子が戒めた言葉です。

John is the pot calling the kettle black. といえば「ジョンも人のこと言えないわよね」という皮肉になります。下の例文のように相手に面と向かって言えば、確実に言い合いになりますから、そのつもりで使ってくださいね(笑)

ちなみに「人の振り見て我が振り直せ」は One man's fault is another's lesson。

<例文>
You're accusing me of being late?
Ha! You're the pot calling the kettle black!
You're usually the last person to show up!
私が遅れたことを責めてるわけ? 
ちょっと、自分のことを棚に上げないでよ。
いつも一番遅れてくるのはあなたじゃない!

add fuel to the fire

これは、今から約2000年前、古代ローマの著名な歴史学者ティトス・リウィウス Titus Livius が史記で用いた言葉です。

炎に水を注ぐと火は消えますが、石炭や薪などの燃料 fuel をくべると炎はさらに大きくなります。

リウィウスは、炎を直面している問題に、燃料を言動に例えて、「不用意な言動が深刻な問題をさらに悪化させる」という意味で使いました。日本語にも「火に油を注ぐ」という表現がありますね。

リウィウスは、紀元前29年頃にローマ建国史全142巻を著したことから、歴史に名を残しています。

類義語には、fan the flames「炎をあおる」などもあります。

<例文>
You should avoid any action that would add fuel to the fire.
状況を悪化させるようなどんな行動もつつしんでもらいたい。

Achilles' heel

アキレス Achilles は、ギリシャの詩人ホメロス Homer の大叙事詩「イリアス Iliad」に登場するスパルタの勇士。

アキレスの母テティスは、我が子を不死身にするため、冥府の川ステュクス Styx に幼いアキレスを浸しました。でも踵をつかんで逆さにしていたため、水に浸らなかった踵だけがアキレスの弱点になってしまいました。

無敵の勇者と恐れられた英雄アキレスでしたが、トロイ戦争では、敵国トロイの王子パリスに唯一の弱点である踵を矢で射貫かれ、命を落としてしまいます。

このエピソードから Achilles' heel は「実力がある人の唯一の弱点、口論などで突かれると弱い部分、急所」を意味するようになりました。日本語に例えれば「弁慶の泣きどころ」でしょうか。

ちなみに、アキレス腱は Achilles' tendon、Achilles の発音はアキ^リーズです。

<例文>
Nobody is perfect. Everybody has their Achilles' heel.
完璧な人なんていないよ。誰だって弱点くらいあるさ。